ソメイヨシノとてんぐ巣病

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【桜の名所に危機迫る 武庫川さくら回廊で病気や虫害拡大】

武庫川沿いの約25キロ区間に約5千本の桜が連なる兵庫県三田市の名所「武庫川さくら回廊」で近年、花が咲かなくなる病気が拡大している。回廊は約30年前から県と市が植樹し、その多くはソメイヨシノだ。専門家は「この種は一般的に樹齢が60年と短いとされ、このままでは30年後からどんどん咲かない木が増えていく事態が想定される」と指摘。県内でも太平洋戦争後に植えられたソメイヨシノは多く、危機に直面しつつあるという。(門田晋一)

てんぐ巣病で枯れた桜(手前)=2019年4月、三田市藍本

昨春、満開の回廊で花々に目を凝らすと、小枝が密集して花が咲かない枝先が点在していた。「てんぐ巣病」だ。放置すると全体に広がるといい、既に枯れてしまっている木もあった。

「ソメイヨシノにとって、三田の気候はあまり向いていないんです」と樹木医の小西朋裕さん(50)が語る。どういうことか。

小西さんによると、てんぐ巣病の原因となるカビの一種「タフリナ菌」は高温多湿を好み、夏場が蒸し暑い盆地にあって、さらに川沿いにあるソメイヨシノは格好の餌食になる。

有効な治療法はなく、三田市は何度となく感染した枝を切除してきた。だが歯止めはかからず、今も丹波篠山市から三田市北部にかけて感染の拡大が続いているという。

病気は寿命にも左右しかねない。青森県の弘前公園には日本最古で知られる樹齢約140年のソメイヨシノがあるが、「長寿なのは寒冷地という強みもあるのではないか。青森名産のリンゴが桜と同じバラ科であるように、病害虫が少なく、生育に適していると考えられます」と指摘する。

ソメイヨシノの大敵は、てんぐ巣病に加え虫害もある。幼虫が幹を食べて桜木を枯れさせる特定外来生物「クビアカツヤカミキリ」は県周辺で被害が続出している。小西さんは「観光資源を守るなら、思い切って植え替えるなどの対策も必要ではないか」と話す。

武庫川沿いの桜並木。この満開ぶりはいつまで続くか=2019年4月、三田市天神1

武庫川さくら回廊は、県が計画した「ふるさと桜づつみ回廊」の一部で、瀬戸内海に注ぐ武庫川から日本海に流れる円山川まで県を縦断する約170キロを約5万本の桜木でつなぐ。1990~2000年ごろに整備され、三田の約25キロ区間は市が担ってきた。

市はこの約5千本を毎年700万円を投じて管理。ただ、枝の切除や周辺の除草が中心で、樹齢への抜本策は取れていない。担当者は「現状の規模は維持したいが数十年先を見通すのは難しい」と苦慮している。

【桜木のてんぐ巣病】糸状菌のタフリナ菌が感染して発症する病気。菌は冬芽や葉の細胞内部で越冬し、春に胞子を飛散させるとされる。ほうきのように枝を広げ、放置すると樹木全体に広がり枯れてしまう。発症した枝を切って焼却処分する以外に有効な対策がなく、切断しても幹に菌が残る恐れがある。

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